
「前立腺肥大症は一度治せばもう大丈夫?」「手術後でも症状が再発するのはなぜ?」
前立腺肥大症(BPH)は、加齢に伴い不可逆的に進行する慢性疾患です。薬物療法や外科的治療によって症状が寛解しても、病態の根本原因が継続するため、再発や病状悪化のリスクが伴います。
この記事では、前立腺肥大症が再発する病態生理学的要因から、治療法ごとの再発リスク、そして再発を未然に防ぐための専門的なセルフマネジメントまで、泌尿器科専門医の視点から詳細に解説します。
1. 前立腺肥大症の再発を促す病態生理学的要因
前立腺肥大症の再発は、単なる治療効果の減弱ではなく、病態の根本的なメカニズムに深く関連しています。
ホルモン環境の変化と前立腺組織の再増殖
前立腺肥大症の主因である加齢に伴うホルモンバランスの変化は、治療後も継続します。
- テストステロンからDHTへの変換
前立腺上皮細胞に取り込まれたテストステロンは、5α還元酵素によってより活性の強いジヒドロテストステロン(DHT)へと変換されます。DHTは前立腺組織の増殖を促す強力なアンドロゲン(男性ホルモン)であり、この作用は治療後も続きます。
- 相対的なエストロゲン優位
加齢によりテストステロンが減少する一方、相対的に女性ホルモンであるエストロゲンが優位となることも、前立腺組織の肥大を促す要因と考えられています。
特に、薬物療法で前立腺を縮小させた場合、5α還元酵素阻害薬の服用を中止すると、DHTの産生が再開し、前立腺は速やかに元の大きさに戻ります。
治療法ごとの再発リスク
前立腺肥大症の再発率は、治療によって肥大した腺腫をどれだけ残さずに除去できたかに大きく依存します。
治療法 | メカニズム | 再発リスク・再手術率 | 専門医の見解 |
薬物療法 | 症状緩和・進行抑制(※根本治療ではない) | 非常に高い。服薬中止で症状がほぼ確実に戻る。 | 症状の根本原因を放置するため、根本的な再発予防にはつながらない。 |
TURP (経尿道的前立腺切除術) | 肥大組織の「削り取り」 | 比較的高い。約10年で10〜15%の再手術が必要となる報告も。 | 内腺を完全に切除できないため、残存組織が再増殖するリスクが残る。 |
PVP/CVP (レーザー蒸散術) | 肥大組織の「蒸散(焼き固め)」 | 比較的高い。約5年で5〜10%の再手術が必要となる。 | 組織が完全に取り除かれないため、長期的な再発リスクがある。 |
HoLEP (ホルミウムレーザー前立腺核出術) | 肥大組織の「くり抜き」 | 極めて低い。10年後の再手術率は1%未満。 | 肥大した腺腫を完全に摘出するため、理論上再発はほとんど起こらない。再発は残存した外腺からの癌化や肥大が主。 |
2. 再発した場合の治療戦略と術後のフォローアップ
前立腺肥大症は、一度治療を受けても継続的な管理が必要です。再発時の治療選択は、患者の全身状態、前立腺の大きさ、および希望に応じて行われます。
①再手術の検討(HoLEPの優位性)
HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)は、再発を極力避けるための最も有効な選択肢です。肥大した内腺を完全に摘出するため、従来の術式(TURPなど)で再発した症例に対しても、根本的な治療として再手術が可能です。
②術後の定期的なフォローアップの重要性
HoLEPによって再発リスクは劇的に低下しますが、前立腺の外腺は摘出されずに残ります。そのため、以下の目的で術後も定期的なPSA検査や超音波検査が不可欠です。
- 残存組織からの再肥大の早期発見
- 前立腺がんの発生監視
3. 治療効果を維持するためのセルフマネジメント
前立腺肥大症は治療法にかかわらず、日々の生活習慣が再発リスクに影響を与えます。
①食事療法
大豆製品に含まれるイソフラボンは、女性ホルモン様作用により前立腺の増殖を抑制する効果が期待されます。トマトのリコピンなど、抗酸化物質を豊富に含む野菜や果物を積極的に摂りましょう。
ただし 高脂肪食は前立腺肥大症のリスクを高めるとされています。また、アルコール、カフェイン、辛い食品は膀胱刺激を強め、頻尿などの症状を悪化させるため、摂取を控えましょう。
②運動
軽度から中等度の有酸素運動(ウォーキングなど)は、全身の血流を改善し、前立腺の虚血状態を予防します。長時間座り続ける姿勢は、骨盤内の血流を滞らせ、前立腺に負担をかけるため、定期的に休憩を取り、軽いストレッチやウォーキングを心がけましょう。
③ストレス管理と禁煙:
慢性的なストレスは自律神経のバランスを乱し、前立腺や膀胱の平滑筋を緊張させ、排尿症状を悪化させる可能性があります。
喫煙は血管を収縮させ、前立腺への血流を悪化させるため、再発防止の観点からも禁煙が強く推奨されます。
まとめ
前立腺肥大症は、治療によって症状は改善するものの、再発リスクをゼロにすることは困難な慢性疾患です。
再発の可能性を最小限に抑えるためには、HoLEPのような根治性の高い手術を選択し、さらに術後も生活習慣の改善と定期的な経過観察を継続することが極めて重要です。
症状が再発した場合はもちろん、術後の経過観察や日常生活におけるご不安があれば、いつでもお気軽に当院にご相談ください。
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北海道旭川市にある神楽岡泌尿器科は、「かかりつけ医」になることを目指し、患者本位で、気軽に緊張せずに受診していただける病院づくりを目指しています。
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▶子どもが大好きな渋谷院長先生はどんな人?

【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」
札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など