無精子症とは?分類・検査・治療法まとめ

「なかなか子どもが授からない」……その原因は女性だけなく、男性にも原因があるケースが少なくありません。

射精はできるのに精液の中に精子が全くいない「無精子症」もその一つです。日本人男性の約100人に1人が無精子症と言われており、決して珍しい病態ではありません。

この記事では、無精子症とはどのような状態なのか、その症状、原因、そして大きく分けられる閉塞性と非閉塞性の違いについて詳しく解説します。

また、無精子症と診断されても妊娠の可能性はあるのか、どのような検査が行われるのか、最新の治療法や費用、保険制度についても、神楽岡泌尿器科院長の渋谷卓也医師監修のもと、徹底的に解説していきます。

この記事のポイント
  • 無精子症は射精された精液中に精子が全く見られない状態
  • 閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の2種類に分類される
  • 原因特定には精液検査、ホルモン検査、画像検査、遺伝子検査などが必要
  • 閉塞性無精子症は精路再建手術や精巣精子採取術(MESA)が主な治療法
  • 非閉塞性無精子症には顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)などが検討される
  • 2022年4月からMD-TESEなど一部治療が保険適用となった

無精子症とは

冒頭でもお伝えした通り、無精子症とは、射精された精液の中に精子が全く見られない状態を指します。

射精自体は正常にできるにもかかわらず精子が存在しない点が、射精が困難な射精障害とは異なります。無精子症の診断には、最低2回以上の精液検査を行い、いずれの検体でも精子が確認できないことが必要です。

日本人男性の約100人に1人が無精子症であると報告されており、男性不妊症の患者さんの約10人に1人がこの診断を受けています。

精液の見た目だけでは無精子症かどうかを判断することはできず、自覚症状もほとんどないため、心当たりがある方は、医療機関での精液検査が不可欠です。

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無精子症の症状

無精子症の自覚症状はほとんどありません。射精は正常に行われるため、ご自身で精液中に精子がいないことを認識することは困難です。

したがって、不妊を心配されて精液検査を受けた際に初めて無精子症と診断されるケースがほとんどです。

ただし、無精子症の原因によっては、間接的な症状が現れることがあります。例えば、以下のような症状がある場合は、念のため医療機関を受診し、検査を受けることをお勧めします。

  • 精巣の大きさや硬さに異常がある
  • 陰嚢に痛みや腫れがある
  • 過去に停留精巣や精巣捻転の既往がある
  • 性感染症の既往がある
  • 鼠径ヘルニアなどの手術を受けたことがある

これらの症状は、無精子症の原因となる可能性のある病態を示唆している場合があります。

しかし、これらの症状がないからといって無精子症ではないとは限りません。繰り返しますが、無精子症の正確な診断には、医療機関での精液検査が必須です。

無精子症の原因

無精子症の原因は多岐にわたり、大きく分けて精巣で精子が作られない場合と、精子は作られているのに通り道が詰まっている場合の2つに分けられます。

原因を特定するためには、精液検査だけでなく、ホルモン検査、精巣の触診や超音波検査、遺伝子検査など、詳細な検査が必要となる場合があります。

1、精巣で精子が作られない(造精機能障害)主な原因

遺伝的な要因染色体異常(クラインフェルター症候群など)、Y染色体微小欠失など
ホルモン異常下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌異常など(まれ)
精巣の病気おたふくかぜによる精巣炎、精巣腫瘍など
治療の影響抗がん剤治療、放射線治療など
その他重度の精索静脈瘤、原因不明の造精機能障害

2、精子の通り道が詰まっている(精路通過障害)主な原因

先天的な異常先天性両側性精管欠損症、射精管閉鎖など
過去の手術パイプカット、鼠径ヘルニア手術など
感染症過去の性感染症による精巣上体炎、精管炎など
炎症前立腺炎などによる射精管の炎症

無精子症の分類

無精子症は、精巣で精子が作られているかどうか、そして精子の通り道に問題があるかどうかによって、大きく以下の2つに分類されます。この分類は、その後の検査や治療方針を決定する上で非常に重要です。

閉塞性と非閉塞性の違い

項目閉塞性無精子症
(Obstructive Azoospermia)
非閉塞性無精子症
(Non-Obstructive Azoospermia)
精子産生正常低下または停止
精子の通り道閉塞あり(精巣上体、精管、射精管など)閉塞なし
精巣の大きさ正常萎縮していることが多い
FSH値正常範囲内高値を示すことが多い(ただし、まれに正常または低値の場合もある)
原因先天的な精管欠損、過去の手術、感染症など遺伝的要因、ホルモン異常、精巣の病気、治療の影響、原因不明など
治療法精路再建手術、精巣精子採取術(MESAなど)顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)、ROSI(限定的)、ホルモン療法(まれ)、精索静脈瘤手術(限定的)
妊娠の可能性治療により比較的高い治療により可能性はあるが、閉塞性に比べると低い場合がある

無精子症でも妊娠することはできるのか

無精子症と診断されても、妊娠を諦める必要はありません。現代の医療技術の進歩により、無精子症の男性でも子供を持つことができる可能性は十分にあります。

特に、以下の方法によって妊娠が期待できます。

1、閉塞性無精子症の場合

 精路再建手術によって精子の通り道が開通すれば、自然妊娠の可能性があります。

手術が難しい場合でも、精巣精子採取術(MESAなど)で精子を採取し、顕微授精(ICSI)を行うことで、高い確率で妊娠が期待できます。

2、非閉塞性無精子症の場合

顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)によって、精巣内でわずかに作られている精子を探し出し、顕微授精(ICSI)を行うことで妊娠を目指します。

精子回収率は閉塞性に比べると低いものの、30~40%程度の確率で精子が得られると報告されています。

近年では、ROSI(円形精子細胞卵子内注入)という技術も一部の医療機関で行われており、MD-TESEで成熟した精子が見つからなかった場合でも、妊娠の可能性が残されています。

ただし、これらの治療法は、専門的な知識と技術を要するため、男性不妊を専門とする医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが重要です。

無精子症のセルフチェックは可能か?

ご自身で無精子症かどうかを正確に判断することはできません。射精は正常に行われるため、精液中に精子がいないことを自覚することは非常に困難です。

近年、自宅で精子の状態を簡易的にチェックできるキットも販売されていますが、これらのキットで無精子症であるかどうかを確定診断することはできません。

これらのキットは、精子の濃度や運動率などを簡易的に測定するものであり、精子が全くいない状態を確実に検出できるとは限りません。

したがって、不妊を心配されている場合や、上記「無精子症の症状」で述べたような気になる症状がある場合は、自己判断せずに、早めに専門の医療機関を受診し、精液検査を受けることが最も重要です。

無精子症の検査方法

無精子症の診断には、詳細な検査が必要です。主な検査方法は以下の通りです。

1、精液検査

無精子症の診断の基本となる検査です。2~7日程度の禁欲期間後、マスターベーションで採取した精液を分析します。

精子の数、運動率、奇形率、精液量などを調べますが、無精子症の場合は精子が確認できません。

精子が確認できない場合でも、遠心分離して再度精子の有無を確認します。診断を確定するためには、最低2回以上の精液検査が必要です。

2、血液検査(ホルモン検査)

精子形成に関わるホルモン(FSH、LH、テストステロンなど)の値を測定します。FSH値が高い場合は、精巣の造精機能に問題がある可能性(非閉塞性無精子症)を示唆します。FSH値が正常な場合は、精子の通り道の閉塞(閉塞性無精子症)が疑われます。

3、精巣の視診・触診

精巣の大きさ、硬さ、精巣上体の状態などを確認します。非閉塞性無精子症では精巣が小さいことが多いです。閉塞性無精子症では精巣上体に腫れがみられることがあります。

4、超音波(エコー)検査

精巣や精巣上体の状態、精管や射精管の閉塞の有無などを画像で確認します。精索静脈瘤の有無も確認できます。

5、遺伝子検査・染色体検査

染色体異常(クラインフェルター症候群など)やY染色体微小欠失など、遺伝的な原因を調べます。Y染色体微小欠失の検査結果は、MD-TESEでの精子回収率の予測因子となる場合があります。

6、精巣生検

上記検査で原因が特定できない場合や、治療方針を決定するために、局所麻酔下で精巣の一部を採取し、顕微鏡で精子の形成状態を確認します。

閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の鑑別に有用です。これらの検査結果を総合的に判断し、無精子症の種類(閉塞性か非閉塞性か)を特定し、適切な治療法を選択していきます。

無精子症の治療法について

無精子症の治療法は、その原因が精子の通り道の閉塞にあるか(閉塞性)、精巣での精子を作る機能に問題があるか(非閉塞性)によって大きく異なります。

①閉塞性無精子症の場合

閉塞性無精子症は、精巣では精子が正常に作られているにもかかわらず、その通り道が閉塞している状態です。このタイプの無精子症に対する主な治療法は、精子の通り道を修復する精路再建手術と、精子を直接採取する精巣精子採取術(TESE)の二つです。

▶精路再建手術で自然妊娠を目指す

精路再建手術では、精子の通り道を塞いでいる部分を外科的に修復し、精子が再び精液中に排出されるようにします。具体的には、パイプカットなどによって精管が閉塞している場合は、顕微鏡を用いて精管同士を縫い合わせる「精管-精管吻合術」が行われます。

また、精巣上体で精子の通りが阻害されている場合は「精管-精巣上体吻合術」が、射精管が閉塞している場合は「射精管解放術」が検討されます。これらの手術が成功すれば、自然妊娠の可能性も期待できます。

▶精巣精子採取術(TESE)による直接回収

精路再建が困難な場合や、より確実に精子を得たい場合には、精巣精子採取術(TESE)が選択されます。

特に閉塞性無精子症では、「MESA(精巣上体精子吸引法)」という方法がよく用いられます。これは、精巣上体から細い針で精子を吸引する方法で、精巣を切開するMD-TESEに比べて、比較的良好な状態の精子を多量に採取できる可能性があります。

採取された精子は、顕微授精(ICSI)に用いられます。閉塞性無精子症の場合、精巣での精子形成は正常であるため、精子回収率は高いとされています。

②非閉塞性無精子症の場合

非閉塞性無精子症は、精子の通り道に問題はなく、精巣で精子を作る機能自体に障害がある状態です。このタイプの無精子症に対する主な治療法は、精巣から直接精子を探し出す手術が中心となります。

顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)

非閉塞性無精子症の最も一般的な治療法は、顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)です。この手術では、手術用顕微鏡を使って精巣内の精細管を詳しく観察し、精子が存在する可能性のある部分から組織を採取します。

採取された組織から精子が見つかれば、顕微授精(ICSI)に用いられます。非閉塞性無精子症の場合、精子が見つかる確率は30~40%程度と報告されており、治療の難易度は高く、複数回のMD-TESEが必要となることや、精子が採取できない可能性もあることを理解しておく必要があります。

その他の治療選択肢

MD-TESEで成熟した精子が得られない場合は、ROSI(円形精子細胞卵子内注入)という治療法が検討されることがあります。これは、精子になる前の段階の細胞である円形精子細胞を卵子に注入する方法で、まだ研究段階の治療法であり、実施している医療機関は限られています。

また、まれなケースですが、ホルモンバランスの異常が原因で非閉塞性無精子症となっている場合には、薬物療法としてホルモン補充療法が行われることがあります。

さらに、重度の精索静脈瘤が存在する場合には、その手術によって精子の状態が改善したり、MD-TESEでの精子回収率が向上したりする可能性が報告されています。

9、無精子症の治療費と保険制度

無精子症の治療にかかる費用は、選択する治療法によって大きく変わります。それぞれの治療法における保険適用の状況と費用の目安を理解しておくことが重要です。

①精路再建手術の費用と保険適用

精路再建手術は、保険適用となる場合とそうでない場合があります。これは、受診される医療機関や選択する手術方法によって費用が異なるためです。手術を検討する際は、事前に医療機関で詳細な費用を確認するようにしましょう。

②精巣精子採取術(MESA・MD-TESE)の保険適用拡大

精巣精子採取術(MESA・MD-TESE)については、大きな変更点として、2022年4月からMD-TESEを含む精巣内精子採取術が保険適用となりました。

これにより、以前に比べて費用負担がかなり軽減されています。ただし、保険適用には特定の条件があるため、必ず医療機関でご自身のケースが対象となるかを確認してください。

以前MD-TESEが保険適用外だった頃は30万円から50万円程度と高額でしたが、保険適用になったことで自己負担額は大幅に抑えられるようになりました。

③顕微授精(ICSI)とROSIの費用

採取された精子を用いて行われる顕微授精(ICSI)は、体外受精と同様に、女性の年齢や治療回数に制限があるものの保険適用となっています。

一方で、ROSI(円形精子細胞卵子内注入)は、現時点では保険適用外の先進医療です。そのため費用は高額になる可能性があり、この治療を検討する場合は、実施している医療機関に直接費用を確認する必要があります。

④高額療養費制度と自治体助成の活用

これらの治療費の負担を軽減するためには、いくつかの制度を活用できます。高額療養費制度は、1ヶ月間の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。

保険診療を受けた場合はこの制度の対象となりますので、該当する可能性があれば積極的に利用を検討しましょう。

さらに、国だけでなく地方自治体でも、不妊治療に対する独自の助成制度を設けている場合があります。お住まいの地域の制度はそれぞれ異なりますので、事前に自治体の窓口やウェブサイトで確認してみることをお勧めします。

無精子症の治療は長期にわたることもあり、身体的・精神的な負担に加えて、経済的な負担も考慮しなければなりません。そのため、費用面についても専門医とよく相談し、ご夫婦にとって最適な治療計画を立てていくことが非常に重要です。

治療法名概要保険適用費用目安(自己負担3割の場合)備考
精路再建手術閉塞した精子の通り道を開通させる手術場合による(要確認)医療機関・術式により異なる成功すれば自然妊娠の可能性あり。事前に医療機関への確認が必須。
精巣精子採取術
  ・MESA精巣上体から直接精子を吸引採取要確認医療機関により異なる閉塞性無精子症で精子回収率が高い。比較的良好な精子を多量に採取可能。
  ・MD-TESE顕微鏡で精巣内の精子を探し採取2022年4月より保険適用数万円~10数万円程度(保険適用時)非閉塞性無精子症の主要な治療法。以前は30~50万円程度の自費診療だった。保険適用には条件があるため要確認。
顕微授精(ICSI)採取した精子を卵子に直接注入する体外受精技術女性の年齢・回数制限あり数万円~(体外受精の費用に加算)精子採取術とセットで行われることが多い。
ROSI精子になる前の細胞を卵子に注入する先進医療保険適用外(先進医療)高額(医療機関により異なる)まだ研究段階で実施医療機関は限定的。
薬物療法(ホルモン補充)ホルモンバランス異常による無精子症に対する治療場合による数千円~数万円(月額)ごくまれなケースに適用される。
精索静脈瘤手術重度の精索静脈瘤がある場合の精子改善・採取率向上目的保険適用数万円~10数万円程度(保険適用時)精子出現やMD-TESEの成功率向上に繋がる可能性。
高額療養費制度月間の医療費自己負担額が上限を超えた場合に適用保険診療のみ対象上限額を超過した分が払い戻し自由診療・先進医療分は対象外。
自治体の助成制度各地方自治体による独自の不妊治療費用助成自治体により条件・内容が異なる各自治体で設定された金額主に保険適用となった体外受精や顕微授精と併用する先進医療が対象。お住まいの自治体への確認が必須。

まとめ

無精子症は、射精された精液中に精子が全く見られない状態を指し、日本人男性の約100人に1人が該当すると言われています。

自覚症状がほとんどないため、不妊治療の検査で初めて判明するケースがほとんどです。

専門医としっかり相談し、最適な治療法を選択することで、前向きに治療を進めることができます。

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