
勃起障害(ED)は、多くの男性が抱えるデリケートな悩みです。性行為において十分な勃起が得られない、または維持できない状態が続くことで、自信の喪失やパートナーシップへの影響など、生活の質にも大きく関わってきます。しかし、EDは適切な診断と治療によって改善が期待できる症状です。
この記事では、泌尿器科の専門医が、勃起障害(ED)がどのような状態を指すのか、その原因から具体的な症状、診断方法、そして最新の治療法までをわかりやすく解説します。一人で悩まず、この記事を参考に専門医への相談を検討してみてください。
勃起障害(ED)とは
勃起障害(Erectile Dysfunction:ED)とは、「満足のいく性行為を行うのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態が持続すること」と定義されます。一時的に勃起がうまくいかないことがあっても、それが継続的に起こり、本人やパートナーが性生活に不満を感じる場合にEDと診断されます。
EDは男性のQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、心臓病や糖尿病などの全身疾患のサインである可能性も指摘されています。
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勃起障害の原因
勃起障害(ED)の原因は多岐にわたり、一つだけでなく複数の要因が複雑に絡み合っているケースも少なくありません。大きく分けて、心理的なもの、身体的なもの、両方が混ざったもの、そして薬剤によるものがあります。
1、心因性ED
精神的なストレス、不安、緊張、性行為へのプレッシャー、過去の失敗体験、パートナーとの関係性の問題などが原因となります。特に若い世代にも多く見られるEDのタイプです。
2、器質性ED
勃起に関わる神経、血管、内分泌(ホルモン)系の異常によるものです。
- 神経障害性ED: 糖尿病による末梢神経障害、脳卒中、脊髄損傷、骨盤内手術(前立腺がん手術など)による神経損傷が原因で、勃起の指令がうまく伝わらなくなることで起こります。
- 血管性ED: 動脈硬化(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など)が進行し、陰茎への血流が悪くなることで起こります。心臓病や腎不全などの全身疾患も関連します。
- 内分泌性ED: 男性ホルモン(テストステロン)の低下(加齢性腺機能低下症など)が原因で、性欲の減退や勃起力の低下が見られます。
3、混合型ED
心因性と器質性の両方の要因が混在している状態です。最も多く見られるタイプで、例えば器質的な問題(動脈硬化の初期など)が勃起不全を引き起こし、それが原因で心理的な不安やプレッシャーが生じ、さらに勃起しにくくなるという悪循環に陥ることがあります。
4、薬剤性ED
現在服用している薬の副作用として勃起障害が起こるものです。具体的には、高血圧治療薬(一部の降圧剤)、抗うつ薬、精神安定剤、胃潰瘍治療薬、抗がん剤、利尿薬などが挙げられます。服用中の薬がある場合は、医師に相談が必要です。
勃起障害の症状
勃起障害(ED)の主な症状は、以下のように分類されます。
1、勃起の質の低下
性的な興奮や刺激があっても、勃起が十分な硬さにならず、満足のいく性行為ができない状態です。
2、勃起の持続性の低下
勃起はするものの、性行為の途中で勃起が維持できず、途中で萎えてしまう状態です。
3、勃起の消失
全く勃起しない、または性的刺激があっても勃起しない状態が続くことを指します。
4、性欲の低下
性的な欲求自体が低下することもEDの症状として現れることがあります。これは、EDの原因となるホルモン異常や、勃起できないことによる心理的な影響が関連している場合があります。
5、朝立ちの消失・減少
睡眠中に自然に起こる勃起(夜間睡眠時勃起)がなくなる、または回数が減少することもEDのサインです。これは器質性EDの可能性を示唆することがあります。
勃起障害(ED)のセルフチェック方法
勃起障害(ED)はデリケートな問題であり、医療機関を受診する前にご自身で症状を確認したい方もいらっしゃるかもしれません。以下の項目は、EDの可能性を判断するための一般的なセルフチェックリストです。
- 性的興奮があるにもかかわらず、勃起しないことがよくありますか?
- 勃起しても、硬さが足りず、挿入が困難なことがよくありますか?
- 挿入できても、性行為中に勃起が維持できないことがよくありますか?
- 朝立ち(夜間勃起)が以前よりも減少しましたか、または全くなくなりましたか?
- 勃起に関する不安や悩みが、日常生活や精神面に影響を与えていますか?
- パートナーとの性生活に不満を感じていますか?
- 糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病と診断されていますか?
- 現在、なんらかの病気で薬を服用していますか?
勃起障害(ED)の診断・検査
勃起障害(ED)の診断と検査は、原因を特定し、適切な治療法を選択するために非常に重要です。泌尿器科では、以下のような手順で診断が進められます。
1、問診
患者さんの性生活に関する詳細(症状の始まり、頻度、状況)、既往歴(糖尿病、高血圧など)、喫煙・飲酒歴、服用中の薬、心理状態、ストレスの有無などを詳しく聞きます。EDの国際的な評価尺度(IIEF-5など)を用いた質問票への記入も行われることがあります。
2、身体診察
全身の状態、特に陰茎や睾丸の形状・大きさ、神経の異常などを確認します。勃起機能に影響を与える可能性のある物理的な問題がないか評価します。
3、血液検査
男性ホルモン(テストステロン)の量、血糖値、HbA1c(糖尿病の指標)、脂質値(コレステロールなど)、肝機能、腎機能などを測定し、ホルモン異常や生活習慣病の有無を確認します。これらの数値はEDの器質的原因を探る上で非常に重要です。
4、尿検査
尿中の糖や蛋白などを調べ、糖尿病や腎疾患のスクリーニングを行います。泌尿器系の他の疾患がないかも確認します。
5、勃起機能検査
必要に応じて、より詳細な勃起の状態を評価する検査が行われます。
夜間睡眠時勃起(NPT)検査、陰茎血流測定、神経学的検査をする場合がありますが専門医によって異なります。
勃起障害(ED)の治療法
勃起障害(ED)の治療法は、その原因によって異なります。医師が患者さんの状態や原因を総合的に判断し、最適な治療法を提案します。
1、心因性ED
精神的なストレスや不安が主な原因の場合、以下の治療法が有効です。
- 心理カウンセリング:ストレスや不安の解消、性行為へのプレッシャー軽減、自信回復を目的とします。パートナーとのコミュニケーション改善も含まれます。
- 生活習慣の改善:ストレス管理、十分な睡眠、適度な運動など、精神的な安定に繋がる生活習慣を整えます。
- ED治療薬:必要に応じて、勃起機能のサポートとして一時的に使用されることもあります。成功体験を積むことで、心理的な改善につながることも期待できます。
2 、器質性ED
身体的な問題が原因の場合、その原因に合わせた治療が行われます。
- 原因疾患の治療:糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある場合は、まずそれらの治療を徹底します。これにより、EDの根本的な改善が期待できます。
- ED治療薬:血管性EDなどに対しては、PDE5阻害薬などの内服薬が第一選択薬として用いられます。
- 生活習慣の改善:全身の血流改善や健康維持のためにも、食事、運動、禁煙、節酒などの生活習慣の見直しが重要です。
- 手術:重度の血管性EDなどで薬物療法が効果ない場合、陰茎プロテーゼ(人工陰茎)の挿入手術が検討されることもあります。
3、混合型ED
心因性と器質性の両方の要因が混在している場合、両面からアプローチします。
- 原因疾患の治療と心理カウンセリングの併用: 薬物療法で身体的改善を図りながら、心理的なサポートを同時に行います。
- ED治療薬:身体的なサポートと成功体験の蓄積に役立ちます。
- 生活習慣の改善:身体的・精神的健康の維持に貢献します。
4、薬剤性ED
服用している薬が原因の場合、以下の対応が考えられます。
- 薬剤の見直し: 原因となっている薬の変更、または減量が可能か医師と相談します。ただし、自己判断での中止は危険な場合がありますので、必ず主治医に相談してください。
- 代替薬の検討:EDの副作用がない薬剤への切り替えを検討します
勃起障害(ED)治療薬の種類
勃起障害(ED)の治療薬は、主に内服薬が中心となります。これらの薬は、陰茎への血流を増やし、勃起をサポートする働きがあります。
勃起障害(ED)治療薬
有効成分(代表例) | 効果・特徴 | 服用方法・注意点 |
バイアグラ(シルデナフィル) | 陰茎の血管を広げ、血流を増加させることで勃起を促します。服用後比較的短時間で効果が現れます。 | 性行為の約30分~1時間前に服用。効果持続時間は数時間。食事の影響を受けやすい場合があります。 |
レビトラ(バルデナフィル) | バイアグラと同様に血管拡張作用があり、即効性が期待できます。食事の影響を受けにくいとされます。 | 性行為の約15分~30分前に服用。効果持続時間はバイアグラと同程度。 |
シアリス(タダラフィル) | 効果の持続時間が長く、「ウィークエンドピル」とも呼ばれます。自然な勃起に近い感覚が得られるという声もあります。 | 性行為の約1~3時間前に服用。効果持続時間は最大36時間。食事の影響を受けにくい。 |
ステンドラ(アバナフィル) | 比較的速効性があり、副作用が少ないとされます。 | 性行為の約15分~30分前に服用。効果持続時間は約6時間。 |
ザイデナ(ウデナフィル) | シアリスと同様に効果持続時間が長い特徴を持ちます。 | 性行為の約30分~1時間前に服用。効果持続時間は約12~24時間。 |
プロスタグランジンE1製剤 | (例:カベルジェクト) | 陰茎に直接注射することで、血管を拡張し勃起を促します。内服薬が効かない場合に検討されます。 |
これらの薬は医師の処方が必要な医療用医薬品です。必ず医師の診察を受け、指示に従って服用してください。併用禁忌の薬や持病がある場合は服用できないことがあります。
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勃起障害(ED)の予防法
勃起障害(ED)は生活習慣と密接に関わっています。日頃から健康的な生活を心がけることで、EDのリスクを減らし、性機能の維持・改善に繋がります。
1、バランスの取れた食事を心掛ける
糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病は動脈硬化を進行させ、EDの大きな原因となります。野菜や魚を中心とした和食を意識し、脂質の多い食事や過剰な糖分摂取を控えることが重要です。抗酸化作用のあるビタミンC・E、亜鉛などを積極的に摂りましょう。
2、適度な運動をする
有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)は、全身の血流を改善し、動脈硬化の予防に繋がります。また、肥満解消にも効果的です。下半身の筋肉を鍛えることで、骨盤周辺の血流も促進されます。
3、禁煙・節酒を心がける
喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を促進するため、EDの強力な危険因子です。禁煙はED予防だけでなく、全身の健康に良い影響を与えます。過度な飲酒も神経系や肝機能に影響を与え、性機能を低下させる可能性があります。適量を守り、休肝日を設けましょう。
4、ストレスを溜め込まない
ストレスは心因性EDの直接的な原因となるだけでなく、自律神経の乱れを通じて器質性EDにも影響を与えることがあります。趣味やリフレッシュできる時間を作り、ストレスを上手に解消することが大切です。十分な睡眠もストレス管理には欠かせません。
まとめ
勃起障害(ED)は、性行為において十分な勃起が得られない、または維持できない状態を指し、その原因は心理的なものから、動脈硬化や神経障害といった身体的なもの、そして薬剤の副作用まで多岐にわたります。しかし、EDは決して治らない病気ではありません。
大切なのは、一人で悩みを抱え込まず、早めに専門医に相談することです。正確な診断によって原因を特定し、適切な治療法(内服薬、生活習慣の改善、心理カウンセリングなど)を選択することで、多くのEDは改善が期待できます。EDの治療は、性生活の質の向上だけでなく、隠れた全身疾患の早期発見にも繋がる可能性があります。
神楽岡泌尿器科では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた丁寧な診察と治療計画をご提案しています。もし勃起障害でお悩みでしたら、お気軽に当院へご相談ください。
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北海道旭川市にある神楽岡泌尿器科は、「かかりつけ医」になることを目指し、患者本位で、気軽に緊張せずに受診していただける病院づくりを目指しています。
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▶子どもが大好きな渋谷院長先生はどんな人?

【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」
札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など