
「最近、おしっこが出にくくて困っている…」
排尿時のわずかな違和感から、なかなか尿が出ないという切迫した状態まで、おしっこが出にくいと感じる症状は、多くの方にとって不安の種です。特に、中高年の男性や、忙しい毎日を送る方にとっては、日常生活に大きな支障をきたす可能性もあります。
この記事では、「おしっこが出にくい」という悩みを抱えるあなたに向けて、その主な原因や治療法を泌尿器科医が詳しく解説します。男性特有の前立腺肥大症から、尿道狭窄、膀胱機能の低下、神経疾患、そして意外なストレスや生活習慣の影響まで、様々な角度から原因を解き明かします。
おしっこが出にくいとは?
おしっこが出にくいと感じるときはどのような症状なのでしょうか。症状の説明や違和感を持つべき排尿について説明します。
症状の概要と定義
おしっこが出にくいとは、スムーズな排尿が困難な状態全般を指します。
その現れ方は様々です。具体的には、尿意があるにもかかわらず全く尿が出ない尿閉、以前に比べて尿の勢いが明らかに弱く、ちょろちょろとしか出ない、排尿する際にお腹に力を入れないと尿が出ないあるいは出しにくい、排尿の途中で何度も尿が途切れてしまうなどが挙げられます。
一度に尿を出しきることができず時間がかかる、そして排尿後にも膀胱に尿が残っているような感覚を覚える残尿感なども症状のひとつです。
正常な排尿と異常な排尿の違い
正常な排尿とは、私たちが尿意を感じた際に、無理な力を加えることなくスムーズに尿を排泄でき、排尿後には膀胱が空になり、すっきりとした爽快感が得られる状態を指します。
健康な成人の場合、日中の排尿回数は一般的に5回から7回程度であり、夜間に排尿のために起きることは通常ありません。一回の排尿量は約150mlから400ml程度で、尿は勢いよく、途中で途切れることなく排出されます。
一方、異常な排尿は、これらの正常な排尿のパターンから逸脱した状態を意味します。排尿回数においては、日中に8回以上トイレに行く頻尿や、夜間に何度も排尿のために起きる夜間頻尿などが挙げられます。排尿量においても、一日の尿量が極端に多い多尿や、逆に少ない乏尿は異常とみなされます。
おしっこが出にくい主な原因と影響
おしっこが出にくいという症状は、様々な原因によって引き起こされ、放置すると日常生活に支障をきたすだけでなく、腎臓などの臓器にも悪影響を及ぼす可能性があります。主な原因とそれらが体に与える影響について解説します。
前立腺肥大症とその影響
おしっこが出にくいという症状の原因のひとつとして、代表的な疾患の一つが前立腺肥大症です。
男性特有の病気であり、加齢とともにその有病率は著しく上昇します。研究データによると、50歳代の男性の約30%、80歳以上になると90%近くの方に前立腺の肥大が見られると報告されています。
これは、年齢を重ねるにつれて、多くの方が尿の出にくさを経験する可能性が高いことを示しています。加齢に伴い前立腺が徐々に肥大化すると、膀胱の出口を取り囲む尿道を圧迫し、尿の通り道を狭くします。その結果、尿意を感じてもスムーズに排尿することが困難になります。
尿道狭窄の原因と症状
尿が出ないという症状は、尿道が物理的に狭くなったり、異物によって塞がれたりすることでも起こります。代表的な原因として挙げられるのが、尿道狭窄です。尿道狭窄は、尿道が炎症や外傷、手術などの影響で瘢痕化し、内腔が狭くなる病態です。尿の通り道が狭くなるため、膀胱に尿が溜まっていてもスムーズに排出できなくなります。
膀胱機能低下による排尿障害
膀胱は、尿を貯めて適切なタイミングで排出する重要な役割を担っています。しかし、その機能が低下すると、排尿がスムーズに行えなくなり、「おしっこが出にくい」と感じる原因となります。膀胱機能低下による排尿障害は、膀胱の筋肉(排尿筋)の収縮力が弱まったり、膀胱が十分に拡張できなくなったりすることなどが原因で起こります。
神経疾患が引き起こす排尿困難
脳、脊髄、末梢神経などの神経系は、膀胱に尿を溜める(蓄尿)機能と、適切なタイミングで尿を体外に排出する(排尿)機能を精密にコントロールしています。
これらの神経経路のいずれかに疾患や損傷が生じると、膀胱の機能が正常に働かなくなり、排尿困難をはじめとする様々な排尿障害を引き起こすことがあります。
ストレスや生活習慣の影響
精神的なストレスや不規則な生活習慣は、自律神経のバランスを大きく乱し、それが排尿機能にも様々な影響を与えることがあります。心と体が密接に結びついているため、精神的な負担が身体的な症状として現れることは珍しくありません。
おしっこが出にくいのは男女の違いはある?
男女の違いはありますが、男性は女性に比べて尿が出にくい傾向にあり、女性は逆に漏れやすいという特徴があります。男性が尿が出にくい原因のひとつとしては、前立腺肥大症が挙げられます。
加齢に伴い前立腺が肥大化することで尿道が圧迫され、尿の通り道が狭くなるため、排尿に時間がかかったり、尿の勢いが弱くなったりといった症状が現れます。
一方、女性は男性に比べて尿道が短く、骨盤底筋という膀胱や子宮などを支える筋肉が、出産や加齢などによって緩みやすい構造をしています。そのため、腹圧がかかった際などに尿道が十分に締め付けられず、尿もれが起こりやすい傾向があります。
男女の体の構造や、特有の生理的な変化が、排尿に関する異なるトラブルを引き起こしやすいと考えられます。
おしっこが出にくいと感じたときのセルフチェック
おしっこが出にくいかもしれない!と感じた時のご自身の状態を把握するためのセルフチェックポイントを解説します。
日常生活での観察ポイント
普段の排尿の様子を注意深く観察することは、おしっこが出にくいといった排尿トラブルの早期発見につながります。日中や夜間のトイレの回数が以前と比べて増えた、あるいは減ったといった変化はないか、急に我慢できないような強い尿意を感じるか、または逆に尿意を感じにくいといった変化はないか、などを意識してみましょう。
また、尿の色や状態がいつもと異なり、濁っている、血が混じっている、泡立ちが強いといった様子はないか、排尿の勢いが以前と比べて弱くなっていないか、なども、重要な観察ポイントとなります。これらの些細な変化に気づくことが、適切な対応への第一歩となります。
症状の進行度合いを確認する方法
症状の進行を確認するためには「排尿日誌」をつけるのがおすすめです。
排尿の時間、量、尿意の程度、水分摂取量などを記録することで、自身の排尿パターンを客観的に把握することができます。

自宅でできるおしっこが出にくい症状の改善方法
おしっこが出にくいと感じた場合に、自宅でできる改善方法をいくつか紹介します。ただし、これらの方法はあくまで症状の緩和や進行の遅延を目的としたものであり、根本的な治療にはならない可能性があることを理解しておきましょう。
骨盤底筋トレーニングの方法
おしっこが出にくいと感じている方は、自宅でできる骨盤底筋トレーニングを、毎日の習慣として継続してみてください。骨盤底筋群を鍛えることで、膀胱の収縮がスムーズになり、おしっこの出にくさが徐々に改善していくことが期待できます!

- 仰向けに横になり、両足を肩幅程度に開き、膝を軽く立てます。全身の力を抜き、リラックスしましょう。
- 尿道、肛門、膣を意識して、1秒間キュッと締め、同じく1秒間でゆっくりと緩める動作を、15回程度繰り返します。
- 尿道、肛門、膣をゆっくりと、ぎゅーっと締め、その状態を3秒間ほどキープします。その後、ゆっくりと力を抜いて緩めます。この動作を2〜3回繰り返します。慣れてきたら、締める時間を少しずつ延ばしてみましょう。
- 上記の手順1〜3を、最初は1回5分程度から始め、徐々に10〜20分程度まで時間を増やしていくと効果的です。
生活習慣の見直しと食事のポイント
おしっこが出にくいと感じる場合、日々の生活習慣や食事の内容を見直すことが、症状の改善につながる可能性があります。睡眠不足は自律神経の乱れにつながるため十分な睡眠を意識することや、バランスの取れた食事を心がけ、免疫力を高めましょう。
ストレス管理とリラクゼーション
精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、排尿機能にも悪影響を及ぼすことがあります。過度なストレスは膀胱を過敏にさせ、頻尿や尿意切迫感を引き起こしたり、排尿時の筋肉の緊張を高めて排尿困難を招いたりする可能性があります。
日常生活で意識的にストレスを管理し、心身をリラックスさせる時間を持つことが大切です。趣味に没頭する、音楽を聴く、アロマテラピーを取り入れるなど、自分に合ったリフレッシュ方法を見つけるのもおすすめです。
おしっこ出にくいと感じた受診のタイミング
自宅でできる改善方法を試しても症状が改善しない場合は、泌尿器科を受診して専門医の診断を受けることを強くお勧めします。
特に、下腹部が張って固く感じられ、痛みがある場合(特に押すと痛みが強くなる場合)は、尿が膀胱に溜まっている可能性があり、緊急的な処置が必要となることがあります。そのため、このような症状が現れた場合は、その日のうちに泌尿器科を受診してください。
まとめ
今回は、おしっこが出にくい原因や治療方法について解説しました。
特に、中高年の男性や、忙しい毎日を送る方にとっては、日常生活に大きな負担をかける悩みでもあります。
もし、誰にも相談しにくいおしっこに関するお悩みをお抱えでしたら、当院(神楽岡泌尿器科)では、院長直通の無料メール相談も承っております。どうぞお気軽にご相談ください。
さらに、当院の院長はオシッコスペシャリストとして、誰も教えてくれないオシッコの習慣・仕方について詳しく本にまとめています。
おしっこに悩む全ての人に捧げた本なので、お悩みの方は参考にしてみてください。
著者:渋谷秋彦

【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」
札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など