前立腺肥大症の水蒸気治療(WAVE)とは?費用・適応・デメリットを医師が解説

前立腺肥大症の手術には複数の方法があり、その選択肢の一つが、水蒸気の熱エネルギーを利用する「WAVE(経尿道的水蒸気治療)」です。

WAVEは、肥大した前立腺組織に水蒸気を注入し、組織を時間をかけて壊死・吸収させることで排尿症状の改善を目指す治療です。日本ではRezum(レジューム)システムを用いて行われ、2022年9月から保険診療の対象となっています。

一方で、すべての前立腺肥大症の方にWAVEが適しているわけではありません。前立腺の大きさや形、症状、全身状態などを確認し、HoLEPなどほかの術式も含めて治療方法を選ぶことが大切です。

前立腺肥大症で行われる手術の種類を先に知りたい方は、「前立腺肥大の手術について種類・適用レベル・術後の治療を詳しく解説」もご覧ください。

この記事では、WAVEの仕組み、費用、対象となる方、メリット・デメリット、術後の経過、HoLEPとの違いについて解説します。

【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」

札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など

前立腺肥大水蒸気治療「WAVE」とは

WAVE(Water Vapor Energy Therapy)は、前立腺肥大症に伴う排尿症状の改善を目的とした経尿道的水蒸気治療です。

治療では尿道から専用のデリバリーデバイスを挿入し、内視鏡で確認しながら肥大した前立腺に細い針(ニードル)を刺して、その先端から103℃の水蒸気を噴霧します。水蒸気が液化するときに生じる熱エネルギーによって組織を壊死させ、その組織が1~3か月ほどかけて体内へ自然に吸収されることで、尿道への圧迫を軽減していく仕組みです。

1回の穿刺では9秒間水蒸気を噴霧し、針を抜くまでを「1処理」として、前立腺の大きさや形に応じて複数箇所を治療します。組織をその場で切除する治療ではないため、術後すぐに前立腺が小さくなるわけではありません。

なお、WAVEは日本泌尿器科学会の専門医であり、機器メーカーが提供する講習プログラムを修了した医師が行うこととされています。当院の院長・渋谷も、この講習を修了しています。

WAVEの対象となる人

国内の「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」では、薬物療法で十分な効果が得られない場合や、中等度から重度の症状がある場合、尿閉・尿路感染症・血尿・膀胱結石などの合併症がある、または懸念される場合に手術療法の適用を検討するとされています。

日本泌尿器科学会などが2026年4月に改訂した適正使用指針では、WAVEはこのように手術療法の適応と判断された方に対する選択肢の一つとして位置づけられています。

この適正使用指針では、前立腺体積30~150mLが一つの目安とされています。保険導入初期は、あまり大きな前立腺には適応がないということでしたが、現在は大きさによる治療適応の制限は無くなっています。海外では30~80mLを推奨対象とするガイドラインもあり、資料によって記載が異なる点にはご注意ください。

ただし、前立腺の大きさだけで治療法が決まるわけではありません。大きさだけではなく、肥大結節の場所や数、それぞれの体積が大事な要素です。どのような通過障害があるかということが問題となります。

前立腺の大きさについて詳しく知りたい方は、「前立腺の大きさはどこからが正常?異常?泌尿器科が解説します」も参考にしてください。

当院の院長・ 渋谷は、「水蒸気は熱が拡散して広がっていく治療だからこそ、いかに肥大結節へ的確に注入するかで効果が変わる」と考えています。やり方や患者さんのタイプ、どこに打つかによって効果は違ってきます。誰にでも同じ治療をするのではなく、患者さんに合うものを選びたいと考えています。 

なお、尿路感染症がある場合や、視野を妨げるほどの著しい血尿がある状態ではWAVEを行えません。また、抗血栓薬・抗凝固薬を休薬することが難しい場合は、慎重な判断が必要です。

WAVEのメリット

組織を切除せず水蒸気で治療する

WAVEは、電気メスやレーザーで肥大組織を直接切除・核出するのではなく、水蒸気の熱エネルギーで組織を壊死させ、体内への吸収を待つ治療です。

前立腺の形や治療する範囲を確認しながら必要な箇所へ水蒸気を噴霧するため、どこを治療するかという医師の判断も重要になります。

性機能への影響を抑えられる可能性がある

WAVEは、性機能への影響が比較的少ない治療として検討されることがあります。

50歳以上・前立腺体積30~80mLの197名を対象に5年間追跡した海外の臨床試験では、症状の改善が5年間持続し、機器や手技に関連する性機能障害、持続する新たな勃起不全の報告はなかったとされています。

ただし、「性機能への影響がない」と断定することはできません。国内の適正使用指針に掲載された臨床試験では、無射精、勃起不全の悪化、射精量の減少なども報告されています。

性機能をできるだけ維持したい場合も、リスクを含めて医師へ相談しましょう。

前立腺肥大症の手術後の性生活や性機能が気になる方は、「前立腺肥大症と性生活の不安を解消!手術後も性行為はできる?」でも詳しく解説しています。

WAVEのデメリット・注意点

効果が出るまで時間がかかる

WAVEでは、水蒸気によって壊死した組織が1~3か月ほどかけて自然に吸収されます。

そのため、組織を直接取り除く手術とは異なり、治療直後から排尿状態が大きく改善するとは限りません。

臨床試験では3か月以内に症状の改善が確認され、その効果が5年間持続したデータがありますが、改善の程度や時期には個人差があります。

術後にカテーテルが必要になる場合がある

WAVE後は前立腺の腫れによる尿閉を防ぐため、尿道カテーテルを一定期間留置することがあります。

適正使用指針に記載された臨床試験では、89.7%の方に術後カテーテルが留置され、平均留置期間は3.4日でした。ただし、1~30.9日と幅があり、前立腺の状態や排尿状態によって異なります。

合併症や再治療の可能性がある

国内の適正使用指針に掲載された臨床試験では、発現率2.0%以上の有害事象として、排尿障害16.9%、肉眼的血尿11.0%、血精液症7.4%、頻尿5.9%、尿意切迫5.9%、尿閉4.4%などが報告されています。

また、5年間追跡した海外の臨床試験では、外科的な再治療を受けた方は4.4%、あらためて前立腺肥大症の薬を開始した方は11.1%でした。

一度治療すれば必ず再治療が不要になるわけではない点も理解しておきましょう。

WAVEに限らず前立腺肥大症の手術全般についてリスクや後遺症を確認したい方は、「前立腺肥大症手術のデメリット|リスクと後遺症を種類・年齢別に解説」をご覧ください。

WAVEの費用|保険適用・高額療養費制度について

WAVEは保険診療の対象です。

診療報酬点数表では「経尿道的前立腺水蒸気治療(K841-7)」という区分が設けられており、この点数を1点10円として換算した金額が、手術料のおおよその目安になります。診療報酬は2年に一度の改定で見直されるため、最新の点数については受診先の医療機関へご確認ください。

ただし、患者さんが実際に窓口で支払う金額は、この手術料だけでは決まりません。医療材料、術前検査、麻酔、薬、術後の診察などの費用が加わり、年齢や所得によって自己負担割合も異なります。

また、1か月の医療費の自己負担が一定の上限を超えた場合は、高額療養費制度を利用できることがあります。自己負担上限は年齢や所得によって異なるため、加入している公的医療保険へ確認してください。

前立腺肥大症の手術費用については、「前立腺肥大症の手術にかかる費用を泌尿器科が解説!入院と日帰りで費用はどう変わる?」でも詳しく紹介しています。

WAVEの治療の流れと術後

WAVEを行う前には、前立腺の大きさや形、症状、残尿などを確認し、手術の適応を判断します。

治療時の麻酔は、国内の適正使用指針では局所麻酔・腰椎麻酔・全身麻酔などから、患者さんの状態や治療内容に応じて実施医が判断します。

治療までの流れ

事前に外来診療していただき、手術の日程が決まったら前日までは通常通り生活してもらって大丈夫です。

手術当日は以下の流れで行います。

手術当日の流れ

  1. 着替えて手術室に入る
  2. 麻酔を打つ
  3. WAVE手術開始(10分程度)
  4. 尿道カテーテルを留置
  5. 経過観察

次は、術後の変化について見ていきましょう。

術後の変化

術後は尿道にカテーテルを一定期間挿入し、2週間〜3ヶ月程度かけて排尿状態を改善していきます。

主な合併症と対処法は以下の通りです。

主な合併症と対処法

  • 血尿:止血剤の内服
  • 尿閉:カテーテルの再留置
  • 尿路感染:抗菌剤の内服・点滴

これらは通常術後すぐに発生し、1ヶ月程度で回復することがほとんどです。

術後3〜7日は、カテーテルが入っていることで痛みを感じることもあります。その場合は鎮痛剤などを飲みながら経過を見ていきます。

また、尿道カテーテル抜去後は、尿失禁をしてしまうケースが多くあります。時間経過と共に改善することが多いですが、尿失禁があるうちは尿とりパッドなどを使用し対処します。

WAVEとHoLEP・TUR-Pの違い

前立腺肥大症の手術には、WAVE以外にもHoLEPやTUR-Pなどがあります。

それぞれ治療の仕組みが異なるため、「どの術式が最も優れているか」ではなく、自分の状態に適しているかで考えることが重要です。

項目WAVEHoLEPTUR-P
治療方法水蒸気の熱で前立腺組織を壊死させ、時間をかけて吸収させるホルミウムレーザーで肥大した前立腺組織(腺腫)を核出する電気メスで肥大した前立腺組織を切除する
効果の現れ方組織の吸収とともに徐々に改善する肥大組織を直接取り除く肥大組織を直接取り除く
前立腺体積国内指針では30~150mLが目安前立腺の大きさや形、患者の状態を踏まえて判断前立腺の大きさや状態を踏まえて判断
性機能影響を抑えられる可能性があるが、射精・勃起機能への影響がゼロではない射精障害などが起こる可能性がある射精障害などが起こる可能性がある
カテーテル臨床試験では平均3日~1ヶ月。個人差あり施設・患者の状態により異なる。基本、翌日抜去施設・患者の状態により異なる
再治療5年追跡試験で外科的再治療4.4%再発の可能性があるが基本不要となる3〜5年で再発の可能性が高い

神楽岡泌尿器科では、HoLEPとWAVEの両方に対応しています。

治療方法を一つに決めつけず、前立腺の状態や患者さんの希望に応じて選択することを大切にしています。

HoLEPについて詳しく知りたい方は、「神楽岡泌尿器科の前立腺肥大症『HoLEPの日帰り手術』について」をご覧ください。

術後の経過については、「HoLEPホーレップ手術の術後に関する悩みを専門医師が回答」でも紹介しています。

前立腺肥大症のWAVEについてよくある質問

WAVEは保険適用ですか?

はい。WAVE(経尿道的前立腺水蒸気治療)は2022年9月から保険診療の対象です。
実際の自己負担額は年齢や所得、検査や麻酔などの内容によって異なります。

WAVEではどのくらいカテーテルを入れますか?

臨床試験では平均3.4日でしたが、1~30日と個人差があります。
当院での留置期間は、治療後の前立腺の腫れや排尿状態などを確認して判断しますが、基本3日目に抜去してみます。

WAVEの効果はいつから出ますか?

水蒸気で壊死した前立腺組織は1~3か月ほどかけて吸収されます。
そのため、治療直後に効果が完成するのではなく、時間をかけて排尿状態の改善を目指す治療です。

前立腺が大きくてもWAVEは受けられますか?

2026年4月改訂の国内適正使用指針では、前立腺体積30~150mLが目安とされています。

ただし、大きさだけで適応を決めることはできません。前立腺の形や症状、持病、服用している薬なども含めて医師が判断します。

WAVEとHoLEPはどちらがおすすめですか?

一律にどちらが優れているとはいえませんが、当院では可能な方はHoLEPが最善とお話ししています。

WAVEは組織を水蒸気で壊死させ、時間をかけて吸収させる治療で、HoLEPは肥大した組織をレーザーで核出する治療ですので、早期に症状が改善します。

前立腺の大きさや形、症状、全身状態、性機能に関する希望などを踏まえて選択します。

自分に合う前立腺肥大症の治療を相談したい方へ

前立腺肥大症の治療は、WAVE・HoLEPを含め、患者さんによって適した方法が異なります。

神楽岡泌尿器科では、WAVEとHoLEPの両方の治療経験を踏まえ、前立腺の大きさや形、症状、持病などを確認したうえで治療方法を検討します。

「WAVEを受けられるのか知りたい」「HoLEPとの違いを自分の場合で相談したい」「手術を勧められたが迷っている」という方は、院長直通の無料メール相談をご利用ください。

院長直通無料メール相談

まとめ

WAVEは、水蒸気の熱エネルギーを利用して肥大した前立腺組織を壊死させ、1~3か月ほどかけて体内へ吸収させる前立腺肥大症の治療です。

日本では2022年9月から保険診療の対象となっており、2026年4月改訂の国内適正使用指針では前立腺体積30~150mLが一つの目安とされています。

一方、術後にカテーテルが必要になる場合があり、排尿障害や血尿、尿閉などの合併症、再治療の可能性もあります。性機能への影響もゼロではありません。

大切なのは、WAVEだけを一律に選ぶのではなく、HoLEPなどほかの治療法も含めて、自分の状態に適した方法を選ぶことです。

排尿症状で困っている方や、どの手術を選べばよいか迷っている方は、泌尿器科へ相談しましょう。

▼WAVEについては、以下の動画でも詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。